Last Updated: 2024.04.19
བྱམས་མགོན་པོའི་བསྟོད་ཆེན་ཚངས་པའི་ཅོད་པན།

弥勒悲讃・梵天の宝冠

ジェ・ツォンカパ・ロサンタクパ著
訳:野村正次郎
デプン大僧院の弥勒見度仏

namo śrī guru mañjughoṣāya

慶友への大慈の涙で濡れている

爾然 暗黒の闇のすべてを焼き尽くす

絡み合う鎖の環は断ち切っている

爾然 強くここに大慈で繋がれている

静寂の河は偏って歪曲しはしない

爾然 他者へ自己より愛は溢れていく

妙に響く文殊師利へと私は跪かん

絶望のなき主人への讃歌を歌うために

四つの真顔は賛辞のことばを語っている

千の眼差は直視し永遠に降り注いでいる

快楽の主宰者さえ虚心となり君には跪く

勝者の代理人 君の足下に私は礼拝する

君は透明な湖に百の花弁を開いている

それはまた陽光によってさらに発光する

君は澄んだ霽空で星たちを護っている

それがまた茉莉花の園に光を注いでいる

君は相好の眩しい光の環の中心にいて

君を視つめる衆生の心を瞬時に奪っている

大慈の主 君へ 幾世でも私は跪かん

どうぞ私の頭頂を荘厳し給わんように

魔を降伏させる陣中では恐怖がない

無敵の勇者たち 天地と地上の最勝師

いつでも眼差が戦慄する衆生に注がれている

私たちを導き給う君 私は君の御足を礼拝する

無辺の所知へと礙げなく志向する

智慧の力で凶悪な魔軍は敗北する

威勢よき若い花も落雷で斃されるように

十力の稲妻の閃光で威嚇している 君よ

敵陣を率いる凶暴な象を撤退させてゆく

善説の咆吼を群衆の中心で響かせている

謀略する狐たちも辺境へ駆逐されてゆく

四無畏を具足し給える人間の獅子 君よ

驕慢にみちた 世間の祖父 梵天

弓箭の持ち主 沙門や婆羅門たち

彼らの誰も語り得ない最勝なる輪

これを転じ衆生を慈しみ救済する 君よ

御身と御言葉には錯誤という名前すらない

記憶を失うこともなく常に平等に入定する

差別や偏見は捨て 寂静へと等至し給える

君の所行は完全に円満で清浄なものである

救済せんとする意思を精進と信念を共にし

禅定と智慧により解脱へと常に向いている

この道から逸れるすべての機会を遠離した

君の証解はこの所以から無上なものである

三世のすべてを障礙なく通達なされてる

清浄な身体と御言葉と御心とその活動は

界の終末を迎えるまで衆生を利益する

この重責を歓喜しながら背負い給える 君よ

広大なる功徳のすべてを究竟し給いて

微細な過失の発生源すら超克し給える

君よ その大慈の溢れだす場となれる

この悲痛の慟哭をしばしは聞き給わん

苦しみの海から解脱へと向かってゆく

かけがえのない人身の船に乗っている

しかし放逸に堕ちて 眠っては話し込む

財産や名声とを追求する慾に穢れている

無意味なことばかりへと心は向かっている

大義を実現しやすいこんな身体も消耗する

私は人間の皮を着ただけの家畜である

君よ 大悲の眼差で見守り給わんことを

かけがえのない身体に恵まれても

力もなく逃げだすこともできない

最強の死王の使者がやってくる

病いと老いとを手に届けてくる

いつ死ねるのかさえ 決まっていない

すべてを捨てることすら 忘れている

年月や暦を数えるだけで過ごしている

暗闇のなか 私は慈しみの最期を迎える

決定勝の境位など語らなくてもよい

道の所依とできると称賛されている

天や人へと生まれてくる保証などない

こんな私を君は気にせずにいられるか

華やかな善趣の身体があっても

教説を正しく弁える智慧により

賢き道を誤らずに見出せないなら

再びまた輪廻の海へと堕ちてゆく

それ故 無知という深い暗闇に囲まれて

何処に行くべきなのか何も見えていない

こんなにも永い間途方に暮れてしまった

この私に智慧の灯火を与え給わんことを

灼熱の鉄の大地へと晒されて火炙りとなる

武器の雨は降り注ぎ身体中へ刺さっている

獄卒に串刺しにされ溶けた銅を飲まされる

舌を引き伸ばし鉄釘は打たれて吊るされる

氷山に囲まれ凍った穴に監禁され

極寒の強風が吹雪いて凍えていく

あちこちに水疱ができ時に破裂し

身体のすべてが粉々になっていく

乱れた髪に隠されて喉はいつも渇いている

かすかに見える水を飲もうと進んでいくが

剣や槍をもつ衛兵たちに道手を阻んでいる

辿り着けた水も血膿のように飲めもしない

くちびるは針先ほど 喉に何か詰まっている

何も飲むことも 何も食べることはできない

食べて飲んでも すぐ焦げ身体を燃やしてゆく

自分の糞尿か肉を刻む以外には食べものはない

蒙昧という深い暗闇に包まれている

正しい道なのかどうか分かりやしない

殺し合うのか それとも天人の家畜となるか

叩かれては繋がれる 痛みが休まることはない

神々たちは互いの権威と名誉に嫉妬する

燃え上がる火焔が安らいだ心を破壊する

戦争により身体を粉々に砕け散ってゆく

謀略に翻弄され 何が正義かも見失っている

勝者の密意を清浄道理で如実に証得する

意趣に則ってご自身でも慈心に動かされ

善巧方便を行じ他者へ教示も究竟し給う

そんな善知識たちにまた出会えるように

彼らに師事し数多の法を聴聞しつづけて

その海原で永く漂い疑念のすべてを断つ

彼らが語らんとしたことを現実化して

善逝たちを歓喜しつづけられるように

牟尼が定め給える矩を踰えることもなく

勝者の家業を継ぎ 善知識を敬っている

円満な鋭根をもち 逆禍から離れている

そんな清浄な者に囲まれて在れるように

暗黒の側面が意志を揺さぶる

集いし法行の宴も中断させる

悪魔の親族たる悪友たちとは

刹那たりとも交わらぬように

この光景を眼にすれば勿論だろう

聞くだけでも恐ろしい惨劇である

地獄 餓鬼 畜生 そして修羅道

さらに険しい崖の底へと堕ちてゆく

賢者が咎めるこの罪業は深く重く

無始以来 そしてこれからも積集する

崖の淵で前を向くが弱りきったこの私を

悪趣の恐怖から救い給う時がやってきた

人に生まれていても財産や地位を

失うかも知れない憂いに悩まされ

上趣にはいても恵まれず困窮する

欲望を実現するために疲弊してゆく

快楽を求めてその糧へと奮闘するが

ひとつ叶えてもいつも完璧ではない

身体には苦痛があり心には不安がある

何をするとも様々に苦しみ悶えていく

美しい肢体と宝飾品で身を飾り

美しい宮殿の楽園に住んでいる

永く望んだ希望のすべてが叶い

上趣の神の栄華を極め遊戯する

しかし死相が射し込んできたいま

これまでずっと心を魅了されてきた

数々の美しい天女たち 楽園の宮廷

甘露の料理や服飾品は失われてゆく

もう若き息子たちとも離れてゆく

望まないが別れの時が来てしまった

この身体にてここに生まれた快楽すら

感じられないほどの強烈な苦痛である

悲しみの業果の炎によって身体は焦げてゆく

幾世にも積んだ善業がいまはもう尽きていく

過去の努力の果を満喫したのも終わりである

享楽的に放逸し悪趣への準備だけ万端である

いまもう一度あの悪趣へと転生し堕ちていく

欲を満たすため 悶えて傷つけることもない

眠ってしまわずに 心の重圧も退けている

心や体に走る激痛も いまは逃げだせている

上禅定の力により 永く安らかに過ごせている

たとえ色無色界の境地を得ていても

行苦という呪縛から逃れられやしない

過去世の禅定で誘われていまこれが尽きる時

再びいま落下して輪廻をめぐってゆくのだろう

人間や神々は輪廻の牢獄の主人公であるはずなのに

それでも生まれきて死んでゆき老いては悶えている

こんな激しい流れに溺れたままで有海へと漂着する

有るという快楽へ囚われたこの不条理を知りつつも

心と裏腹に愛着した 知性の眼は塞いでいた

苦しみを快楽と錯覚した 邪見に駆られていた

ここで転倒して挫けていた 私は何も見えていない

どうか この有の激しき流れから救い給わんことを

貪欲の泥に沈んでしまい解脱道から逸れている

無明の深い闇のなか 智慧の眼を持っていない

戯論により逮捕されて輪廻の監獄に監禁される

業の拷問を受け続けている私 君の大悲の所依

恐ろしい輪廻の断崖に墜ちないように

純粋な志から何度も繰り返し聞法した

真偽を量るため 清浄な道理の力をかりた

無限の善説の了義・未了義のどちらなのか

他人をあてにしなくても 如実に峻別できる

そんな賢者の境地を得なくてはならないのに

然れども勝者の微細な意趣はもちろんである

進むべきか 退くべきか その方角すら

判然と視つめる眼が私には存在しない

またもやこの魔の闇に覆われ消えてゆく

視界もない 解脱への出口など見えてはない

どうか思い給えよ この醜態を 闇を払い給え

勝者と勝子の御前で五明処の

海原に幾度も生を受けてきた

聞法を繰返して 習気は覚醒している

衆生に賢道を示し給う君 ただひとつの眼

過去の賢者たちにも見放されてきている

どこへ向かえばよいのか それも判りもしない

どこにも寄る辺はなくいまここに迷い込んでいる

こんな私を大慈の君は客人として迎えてくださる

何度でも転生しても君を仰いで仕えたい

救済主 弥勒 大慈で衆生を救われる方

速やかにここへと降臨され給わんことを

幾世でも勝乗の善知識となられんことを

身体をもっているすべての者たちのことを

君はいつも休むこともなく慈しみ給われる 

いま君の前で功徳を想い時を過ごしている

信じる心は日々を重ね 次第に深まってゆく

とはいえ 君の居場所はあまりに遠く離れている

もういちど寂静の妙味に触れてみたいと思うのに

そちらへと行きたいのに 身体が動こうとしない

だからいまは 君よ 最勝なる福徳の樹よ

私はこころを浄らかにして 供物を献上する

この大地は黄金と宝石からできている

神々たちの着る やわらかい正絹がある

釈尊が比丘へ賜われた その品々がある

三衣 錫杖 仙人の鉢 これを献上する

それと禅定と請願で化現して創り出さん

すべての供物が至善と歓喜に溢れている

天空を覆うばかり供養の品を積み重ねる

両足の君 君の下へ 私はいま献上せん

拘ることも貪ることもなく 心を込めて

代わりに得たこの純粋な善資のすべてにより

これから先ここで永く流転しながら在る時も

千万の苦難に悶え 安らげる猶予もない時も

何人たりとも見捨てぬ救護者となれるように

世間を導ける最勝の地位に至るまで

どんな生を受けるともそのすべてで

梵行の清浄円満な出家の所依を得て

大乗の種姓が覚醒してゆかんことを

忍耐強く誠実で詐ることもなく

畏れずに勇敢であり信念をもつ

崇敬の念でいつも精進を怠らず

洞察力ある最勝の智慧を得んことを

牟尼王へと仕え 謹んで学ぶ時

その広大な行の成就を妨害する

悪魔の仕業が悪劫へと連れてゆく

そんな障害の履歴は残らぬように

それを身にする者を賢者は歓喜し

導師には沙門の荘厳と讃えられる

菩薩行に従う順縁のそのすべてが

滞ることなく実現していくように

菩提を行じる時にはどんな所化をも

清浄学処で自制する出家へと導かん

彼らに必要な日用品があるのならば

思うだけですべてが得られるように

これから先如何なる生を受けるとも

この身口意で為せるすべての活動は

無限の衆生のための利益の源となり

すべてが彼らのためにならんことを

愛する息子を失った母親のように

深い傷を負っていつも悶えている

彼らのすべてに常に心を尽くして

自己の所有物のすべてを捧げたい

信解を行じて垢を浄めてゆく

過去 現在 未来に出現する

此岸の菩薩衆のなか私はいる

黄金の大地の中心の須弥山で

眼 神通 聞法を積み重ねてゆく

功徳はすべて 品位高く聳えている

稚拙な破壊のすべてを超克してゆく

援軍を頼らない孤高の勇者とならん

勝子として聖者地を学んでゆく時に

三世の勇者たちのいるすべての地を

ひとつずつ私は訪ねて巡ってゆこう

鳥たちの路を飛び回る鳳凰のように

他の勝子たちにも量り得ないほどの

広大極まりない所知の要のすべてを

淀みなく知る智慧を滞りなく発動し

広大なる行法の源流となれるように

このように行じて果を成就する時

三世の勝者の仏身と彼の仏国土と

眷属 活動 寿命 請願の一切を

ひとつに集めた一切のこの行法を

賢く巧みに行じ円満したその後に

永く思いを込めたこの衆生たちへ

正法の甘露で大粒の雨を降らせて

一刹那にして私が救いだすように

天を含む一切世間の唯一の救済者・勝者・弥勒主への悲讃・梵天の宝冠、と題する本編は、多聞の遊行者、吉人ロサン・タクパがロダクのトンリの日出る隠棲処にて綴ったものである。善たらん哉。

本詩篇は1393年に文殊菩薩から命を受けたジェ・ツォンカパがジンチの弥勒如来像(写真)を修復して復興し、その善住法要の時につくられたものである。

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