2018.11.29

五大聖典の学習方法

デプン・ゴマン学堂ではナーランダー僧院の伝統にもとづき、インドの五大聖典の口伝とその解釈の法灯を伝統的な教科書に基づき、師から弟子へと伝え、次世代の伝承者の養成を教育の根本としています。

論理学

論理学の学習として、まずはディグナーガの『集量論』ཚད་མ་ཀུན་བཏུས་・ダルマキールティの『量評釈』ཚད་མ་རྣམ་འགྲེལ་・ゲルツァプジェ・ダルマリンチェンの『解脱道解明』རྣམ་འགྲེལ་ཐར་ལམ་གསལ་བྱེད་ の科文・ダライラマ一世の『正理荘厳』ཚད་མ་རིགས་རྒྱན་ のなかの「自説の規定」(རང་ལུགས་)という四つの書物を暗記しなければならない。

学生たちはまずそれらの書物を暗記し、それを元に講読の授業に参加し、デーヴェンドラブッディの註釈かシャーキャブッディの註釈かのいづれかひとつ・ゲルツァプジェの『量評釈註 解脱道解明』・ケードゥプジェの『量評釈大註』ཊིཀ་ཆེན་という三つの書物をそれぞれ対応させながら詳しく講読してもらい学習する。ケードゥプジェの『量七部荘厳・心の闇の払拭』は各学堂の概説書 སྤྱི་དོན་・考究書 མཐའ་དཔྱོད་よりもさらに高度な難解で重要な項目についての疑問点を正しく払拭する仕方の伝承が記されており、この書物も随時参照される。

このような論理学の学習は、仏教基礎学・精神認証学・証因論理学などを事前に修得していることに基づき、更にそれよりも詳しく論理学を学習することを意味している。たとえばチベット大蔵経の中の因明部のなかのたったひとつの引用についても二十一の書物が異なる説が、サパンの『論理の宝庫』などの『量評釈』に関連するインド・チベットの注釈書が膨大に存在している。したがってこれらの論理学書についての少しでも学識を深めることが出来れば善いのである。

波羅蜜多学

「波羅蜜多学」(パルチン ཕར་ཕྱིན་)の学習はどのようになされるのかというと、波羅蜜多学には「通論」(テルテンཐལ་ཕྲེང་)および「特論」(スルコル ཟུར་བཀོལ་)が設けられている。

【聖典初級】通論(テルテン)

「通論」(テルテン ཐལ་ཕྲེང་)では次のように学習しなければならない。まず講読の該当箇所となる弥勒の『現観荘厳論 根本頌』(・ハリバドラの『現観荘厳論小註意義解明』・クンケンジャムヤンシェーパの『波羅蜜多考究』の「自説の規定」を暗記しなければならない。それらを暗記した上で、講読の授業の際には、『現観荘厳論 根本頌』・『小註意義解明』・ジェツォンカパの『善説金鬘』ལེགས་བཤད་གསེར་ཕྲེང་・ゲルツァプジェの『解説心髄荘厳』རྣམ་བཤད་སྙིང་པོ་རྒྱན་・ケードゥプジェの『難解書解明』དཀའ་འགྲེལ་・グンタンテンペードンメの『割注』མཆན་・クンケンジャムヤンシェーパの『波羅蜜多考究』ཕར་ཕྱིན་མཐའ་དཔྱོད་との合計7つの書物を相互に結びつけて講読が行われなければならないというのが伝統となっている。このような形式で『現観荘厳論』「第8章 果法身」の終わりまで講読が行われる。『現観荘厳論光明』『二万五千頌光明』のいづれかを各自が自主的にこの学級のはじまりから終わりまで研究し、学識を深めて確定を得る必要がある。

ジェ・ツォンカパの『善説金鬘』

波羅蜜多学の学習の過程では、特にゴマン学堂では『善説金鬘』を『現観荘厳論』の八章すべてに共通する概説書として扱うことが伝統となっている。

『善説金鬘』のなかにはインドの二十一の注釈書で説かれている説明が掲載され、更にはそれらのついての反論や検証も掲載されている。ジェリンポチェは『善説金鬘』それ自身において、般若経と対応している十二の注釈書のなかでの二つの「光明」という題名を冠する典籍を主な典拠としており、また般若経と対応していない九つの注釈書のなかでは阿闍梨プラジュニャーカラ(Prajnyakaramati)の『難解処光明』を主な典拠としている。『小註意義解明』は般若経それ自身とは結びついてジェリンポチェは他のすべての注釈書のなかでも最も根本的なものであるとなさったので、学習者も必ずこれを学習しなければならない伝統となっているのである。

チベットの波羅蜜多学に関連する注釈書は沢山あったようであるが、ジェリンポチェが『善説金鬘』Legs bshad gser phrengにおいて考察する際の基盤となさったのは、ブンタクスンパの波羅蜜多学書・大翻訳官ゴク・ロデン・シェーラプ(རྔོག་ལོ་ཙྪཱ་བ་བློ་ལྡན་ཤེས་རབ་)の波羅蜜多学書・アル・チャンチュプ・イェシェー(ཨར་བྱང་ཆུབ་ཡེ་ཤེས་)の波羅蜜多学書・デェチェンポ・シェーラプ・バル(འདྲེ་ཆེན་པོ་ཤེས་རབ་འབར་)の波羅蜜多学書を合わせた合計四つの書物である。

これらは『善説金鬘』における説明の四つの大きな基盤であるという過去の偉大なる学者たちの伝承がある。このように『善説金鬘』のなかにはインドの二十一の注釈書・チベットの四大注釈書の説明が記載されており、小乗の阿毘達磨や大乗の阿毘達磨における主張内容や、各学者たちの考え方、基体・道・果の規定をはじめ、特に順解脱分から法身にいたるまでの道の本質・道の定数・道の順序・経典や論疏などに一体どのように説かれているのかということ等の、般若経のなかに隠れている現観の次第や過去に聖地インドにおいてさえもこれに匹敵する書物はなかったと言っても過言ではない、究極の解説がジェ・リンポチェによりて。まさにこのような意義を意図なさり、大学者で大成就者であったタクツァン・ロツァーワ(སྟག་ཚང་ལོ་ཙྪཱ་བ་ཤེས་རབ་རིན་ཆེན་)ですらも、ジェリンポチェを讃歎する敬意の念を深く表されたのである。

【聖典上級】波羅蜜多学特論

「細説学級」(スルコル)では波羅蜜多学に関連する次のような書物を学習される。たとえば、「善説心髄」の授業では『解深密経』のパラマールタサムドガタの章・ジェリンポチェの『了義未了義判別論 善説心髄』 (དྲང་ངེས་ལེགས་བཤད་སྙིང་པོ་)・ケードゥプジェの『大特効薬』(དབུ་མ་སྟོན་ཐུན་ཆེན་མོ་)・「弥勒五法」(བྱམས་ཆོས་སྡེ་ལྔ་)のなかから『大乗荘厳経論』・『中辺分別論』・『法法性分別論』・および各学堂の概説書ならびに考究書が学ばれる。また「縁起の規定」のクラスにおいては、『大乗稲芋経』・『十o』・『阿毘達磨倶舎論』第三品・『善説金鬘』第五章が学ばれる。『善説金鬘』第三章から発展した議論として『阿頼耶識考究』 ・『縁起経註』などが学ばれる。

中観学

中観学をどのように学ぶのかというと、まずナーガールジュナの「六部正理論集」、チャンドラキールティの『入中論』、ジェリンポチェの『入中論註 密意解明』の科文をすべて暗記する必要がある。これを暗記したことに基づきこれらの書物と、チャンドラキールティの『明句論』、ブッダパーリタの『ブッダパーリタ註』、ジェリンポチェの『根本中論大註』・『道次第広論』『道次第小論』の観の章、ケードゥプジェの『大特効薬』という7つの書物を合わせて講読が行われている。

倶舎学

倶舎学の学級では、まずヴァスバンドゥの『阿毘達磨倶舎論本頌』མཛོད་རྩ་བ་ および長編・短編のいづれかの『阿毘達磨要約頌』མཛོད་སྡོམ་とを暗記しなければならない。それらを暗記したことに基づいて、ヴァスバンドゥの『阿毘達磨倶舎論自注』རང་འགྲེལ་・ヤショーミトラの『阿毘達磨倶舎論広注』もしくはプールナヴァルダナの『阿毘達磨倶舎論註』のいづれか・チム・ジャムペーヤンの『倶舎論註釈』(チムズー མཆིམས་མཛོད་)というこれらの書物を対応させて講読することが伝統となっている。更にはスティラマティの『倶舎論註』やそれぞれの学堂の教科書などに基づいた上で、難しい箇所や問題となる箇所についての疑問を払拭させることとなっている。

戒律学

戒律学の学級では、まずグナプラバの『律経本頌』ならびに長編・短編かの『律要約頌』を暗記しなければならない。それを元に、クンケン・ツォナワの『ツォ註釈』のなかにある、律すべき対象、その 目的・必然性・それに含まれる要項をも暗記しなければならない。その上で阿闍梨ダルマミトラの『律経広註』を『ツォ註釈』とを対応させて講読をすることが伝統となっている。その他には律の元になっている四部阿含を継続的に学習する必要がある。それぞれの学堂の考究書に基づいて、各疑問点を払拭し、特に戒律を正しい論理によって証明し、神通力などによって考えられているものに依存することなく、主としてダライ・ラマ一世・一切智者ゲンドゥンドゥプによって制定された通りのものを言葉通りに損なうことなく受入れる必要があるのであり、このことについては戒律の四部阿含を詳しく理解しているのならば、逸話の内容もはっきりとし、出典も正しいものと必ずなるのである。

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