2011.03.27

他を思いやる心

「勇女だ」

お昼時、野菜を少しカレー風に炒めたものをご飯にのせた、いつものお寺の定番のお昼ご飯を食べていたときでした。テレビでは連日のように震災の被害が報じられていました。チャンネルを何度か動かし、ある民放でとまったとき、一人の女性について報道していました。彼女は町役場の職人で、岩手県に津波が押し寄せたとき、最後まで市民に避難を呼びかけていたために、逃げるのが遅れ、津波に飲み込まれてしまったそうです。画面には、彼女の声を聞いて避難したおかげで助かったというおじいさんが映し出されていました。

「彼女が最後まで呼びかけたから、このおじいさんは助かったらしいよ」

と、アボさんは日本語の苦手なゲンチャンパに説明していました。そしてゲンギャウさんもふくめて三人で、彼女のことを驚きと尊敬の念を込めて話しあっておられました。

日本語に女性の勇者を示す「勇女」という言葉があるのかないのかわかりませんが、その時アボさんは勇女という言葉を口にされました。

「菩薩は何をされても喜びだから、他人に『肉をください』といわれて、自分の肉を切り取ることでさえ喜びだ」

と、前にゲンチャンパに教えてもらっことがありました。
菩提心を起こし、全ての生き物のことを第一にお考えになる菩薩ならば、自分の肉を切り与えることでさえ、利他行であり喜びとなるのでしょう。ですが、凡夫である私たちには、自分より他人を大切に思うことはとても難しいです。まして、自分の命をなげうってなど、簡単に出来ることではありません。菩薩でも、出家者でもなく、普通の町役場の職人として、町の人々のことを第一に考えた女性。その利他の行いは、ほんとうに勇女としか言いようがありません。

他を思いやる心を持ったその勇女に随喜します。

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