2011.03.15

今なにが出来るのか

「大丈夫だから、心配するな」

ゲンチャンパは、そう言って受話器を置かれました。故郷からの電話。テレビで津波の映像を見て心配した親族が、ゲンに電話をかけてこられました。ここ広島は震災地からは遠く離れているため、地震の時も揺れを感じることはありませんでした。

「みんな広島がどこにあるか知らないから、私を心配して電話をかけてくるんだ。とりあえずここは大丈夫だから心配するなと言っても、テレビの映像がショックだったらしくて『大丈夫か?!大丈夫か!?』と電話をかけてきてくれる。特に姉は心配しょうだから、みんなで姉に嘘をついて『この映像は日本じゃないよ』と言っているようだ」

誰もが親族や知り合いを心配しています。
ゲンギャウさんにも、親戚やお弟子さんたちから電話がかかってきたようです。

「みんなインドに戻ってこい、戻ってこいと言うんです」

と、少し困ったような顔をしながら、ゲンギャウさんはおっしゃいました。

僧侶の方々は、テレビで映し出される地震の現状を前に、心を痛めながら何もできないもどかしさを感じておられます。そんな中、今はいつもより大きなバターの灯明に火を灯し、朝と夕方に心をこめて息災祈願法要を行っておられます。

「私にも着てない服が二つほどあるんだけど、送れないだろうか」

とゲンギャウさんが言うと、アボさんが間髪入れずに、

「今は物自体送れないみたいだ」

と口惜しそうに言われました。

なんとか現地に駆けつけて、救助活動を手伝えないか。それが三人に共通した思いです。

昨年、同じく地震にみまわれたチベットのキグドでも、救出活動の先頭にたち、瓦礫の中から人々を救いだしたのは赤い衣を身にまとった僧侶の方たちでした。現場に今すぐかけつけて何かしたいという気持ちは、痛いほどよくわかります。しかし、現時点ではボランティアはむしろ足手まといになります、とお伝えするしかありませんでした。「医者や電気工事を出来るような人以外は、行っても邪魔になりますよ」と言うと、アボさんは真剣な顔で、

「私は電気工事もできますよ!」

と言って、もどかしそうにしておられました。

被災地から遠く離れた場所にいる人間に、いま一体何ができるのでしょうか。祈りをささげること。そして生きることの意味を考えること。釈尊は輪廻は苦しみであると説かれました。その言葉が、今のこのような状態で重くのしかかってきます。

この苦しみが、どうか人の心に強さを起こさせる縁となりますように。
どうか一日も早く平和がもどりますように。

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