2010.10.18

苦しみを糧に

南インド、デプン寺院とガンデン寺院のちょうど中間地点辺りに、チベット人たちの亡命キャンプがある。キャンプには食堂や商店が数軒立ち並ぶが、修行中の身である僧侶たちは寺の用事などを除いて、普段そこまでくることは許されない。ただ、デプン寺院の休日である月曜日だけは例外で、その日は誰でもキャンプまでやってくることができる。
寺院では普段精進料理なので、肉などが食べたければキャンプまで足を延ばすほかない。そのため月曜日に寺からキャンプまでを行き来するジープはいつも満員である。

ある日、キャンプまで買い物にでかけると、人だかりが出来ていた。なんだろうと思って近づいてみると、一匹の子犬が、口から血を流してのたうち回っていた。口からは「キャンキャン」と切なそうな声を発している。

「可哀想に、車にひかれたのよ」

学生の女の子が持っていた水を、子犬の口にたらす。すると犬は少し力が出たのか、よたよたした足取りで、どこかへと歩きさって行った。と同時に人だかりも霧散していった。

しばらく子犬の泣き声が耳に残り、その場に立ち尽くしていると、側にいた一人の僧侶が、

「オンマニペメフームと唱えるといい。そしてあの犬の苦しみ全てを自分に来るようにと祈ってあげて」

と声をかけてきた。

そういえば以前、龍蔵院でみんなでテレビを見ていたとき、どこかの国で起こった災害の模様が画面に映し出された。それを見て「かわいそうですね」と言うと、ゲンギャウさんが、

「オンマニペメフームと唱えるといいです。そしてその苦しみが取り除かれますようにと祈ってください」

とおっしゃっていた。

今年、大地震にみまわれたチベットのケグド。ダライラマ法王も、チベット人たちに対し、

「どんな苦楽があろうとも
それは自ら為した
業の結果でしかありません
地震の被害にあった人たちも
それぞれの為した業の結果が
こうして現れているのです

ですからこうした苦しみの経験というものは
多くの過去生で他の生き物に危害を加えた
その罪業が浄化されるように
そう思って祈るといいでしょう
そう思うことで自分の心の
悲しみも減らすことができますし
起こってしまった苦しみを
逆に功徳を積むきっかけに変えられるのです

この苦しみは起こってしまい
悪い縁に出会ってしまったのです
既に起こってしまったことを
ひどくつらく思うよりも
この機会を出来るだけ
善業を積む機会へと運ぶことができれば
つまり真言をとなえたり
修心の実践をする機会にできれば
苦しみの克服法
そういうものに思いを寄せるのならば
逆境を善の方向へと向かわせる
逆境を菩薩道へと変える

そうできたらいいですね」

(MMBA.jp ビデオポッドキャスト「チベット・ケグド周辺での大地震についてのダライ・ラマ法王による談話」より)

と言葉を発せられた。

苦しみを善へと運ぶ道。それが確かに仏教にはある。

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