2024.07.27
༄༅། །ཀུན་མཁྱེན་འཇིགས་མེད་དབང་པོས་མཛད་པའི་སློབ་གཉེར་བྱེད་ཚུལ་གྱི་བསླབ་བྱ་བཞུགས་སོ།། །།

学習作法に関する教誡

デプン・ゴマン学堂での伝統的な学習方法
クンケン・ジクメ・ワンポ著/野村正次郎訳

すべての学ぶべき学処を究竟して

正しく他者を教化なされる善知識

語ることを自在とする方々を敬礼しつつ

学処の宝珠を簡単に述べてみよう 聞き給え

過去世で積集した善行の力でいまここに得た

この有暇具足は日中の星のように稀有である

無益なまま消耗するのは本当に間違っている

大義の実りを収穫せんとするのが善いだろう

聞思修により心の流れを浄めることもせず

導師勝者の境位をどうして得られるだろう

すべての無知の暗闇を取り除いてゆくため

先初めに聞法という燈明を大切にしなさい

知性なき脆弱の子蜂がどんなに羽を広げ飛ぼうとも

広大無辺な仏典の辺際まで測り知るなど出来ようか

教説のすべての核心が集約しているこの五大聖典を

学んでいくこと これが歴代の賢者たちの流儀である

だからこそ最勝なる仏母の隠密義である現観

直接の説示されている空性 所知の五位実相

律儀の粗細な規範とその範囲を教えるものである

中観・般若・律・倶舎の聖典を詳しく学べとよい

無理解 邪見 疑問 邪推 このすべてを

払拭するために 量七部論・量経等という

量の本典を努めて しっかりと学習して

正理を語る自在者となれるようにし給え

論証式の作法と字義を善く確定した後には

次に通義や註釈などを参照してゆくのである

陽の光を浴びることができる蓮華のように

知性の活動を最大限に増長してゆくがよい

そうせずに課題の論証の作法や派生する演習で

該当した文献を参照していくのをやめてしまい

ただ多くの文献を参照しても浅はかな知の因となる

それ故に当該の本典に集中し一重に向き合うがよい

仏典を記憶せずにただ読書したいと望むこと

問答もできぬまま 法苑で無益に過ごすこと

復習すらも出来ぬまま睡眠と俗物に執着する

これらは学習を妨げる主たる障害なのである

正理により確定しようとしないで本典の意味を

ただ全体の文面だけは明らかに分かっていても

議論や分析をする時 粉々に砕け散ってしまう

それ故正理の秘密の言辞を詳らかに学ぶとよい

取り敢えず 気も合い心も置ける人でも

永く交わるなら功徳の資糧が減少していく

そんな様々な過失の悪影響を与える悪友は

どんな人間だとしても距離をとり退けなさい

三門を不放逸に行じつつ常に生活する

慚愧を知りながら心に遠望をもっておく

はじめた事を最後まで全うしようとする

そうした気高き志士の作法を身につけなさい

如何に楽苦善悪が起こってこようとも

師と三宝へと心を決め向き合い続ける

傘蓋・心経・多羅・長寿呪・勧請業等

厄除消除の次第に勤め成就されんよう

ウーツァンという浄土を訪れたのに

学習もせずに故郷に帰ってくるなど

宝島へと行くことが出来た船乗りが

手ぶらで戻ってきた者と同じである

それ故 無益な散乱から距離をとり

過去の諸賢の行状に倣いその通りに

聖典の大海の密意の本義のすべてを

領解するため心身に鞭を打つとよい

学習の作法は大海の如き広大無辺であるが

ここにまとめてひとつぶの滴で語ってみた

この教誡より他にも利するもあるだろうが

どうぞ忘れずに心の中心に留意して下さい

知性も身体も力あり広大な六足の君よ

牟尼の教説の蓮華が咲き乱れる花園にて

誰もが饗宴している聞思の遊戯を究竟し

聖教と正理を語る自在者とならことを祈る

以上、私の近くへと姿を見せて下さったシャプドゥン・タクパ・ギャルツェンがウー地方へと学習のために出立するのに際して、こうした教誡が必要であるとの委嘱を受け、拙僧クンチョク・ジクメ・ワンポが語ったものである。

訳者解題

本誌篇はクンケン・ジャムヤンシェーパ2世クンチョク・ジクメ・ワンポ(ཀུན་མཁྱེན་འཇིགས་མེད་དབང་པོ། 1728-1791)が愛弟子の化身ラマであるゲル・ケンチェン・タクパ・ゲルツェン(རྒྱལ་མཁན་ཆེན་གྲགས་པ་རྒྱལ་མཚན། 1762-1836)が22歳の時、アムドのラブラン・タシキル大僧院からラサのデプン・ゴマン学堂へと留学するに際して、学業成就を祈って綴ったたものである。

ゲル・ケンチェンはクンケン・ジクメワンポがゴマン学堂の第38代学堂長モンゴルの大学者サンゲードルジェの化身と認定された者であり、グンタン・リンポチェの少し後輩で、アムド時代からグンタン・リンポチェを先輩として学んでいたが、先にラサのゴマン学堂に留学したグンタンリンポチェの後を追う形でゴマン学堂の法流に加わった。グンタンリンポチェは後輩であるこのゲル・ケンチェンに『波羅蜜考究第一章割註』(སྐབས་དང་པོའི་མཚན།)、『了義未了義善説心髄割註』(དྲང་ངེས་མཚན།)、『波羅蜜考究第四章要約偈』(སྐབས་བཞི་པའི་སྡོམ།)などを先輩のノートを譲るようにして学究に励んでいった。25歳の時には政府の要請を受けて、ダライ・ラマ法王第2世ゲンドゥン・ギャツォが開創したチューコル・ゲル僧院(ཆོས་འཁོར་རྒྱལ།)の僧院長(ケンポ མཁན་པོ།)に就任する。このことに因んで彼は「ゲル・ケンポ」と呼ばれるようになった。ゲル・ケンチェンは師匠のクンケン・ジクメワンポの教えの通りにその後もゴマン学堂での学級に務め、最終的にはすべての顕教の学習を終え、首席のゲシェーラランパとなり、アムドに戻り、クンケン・ジクメワンポとグンタン・リンポチェをよく補佐しながら仏法興隆に務めた。彼の弟子には、アク・シェーラプ・ギャツォやデティ・ジャムヤン・トゥプテン・ニマなどがいる他、クンケン・ジクメワンポの伝記や様々な著作を残し、著作集は四巻が現存する。

グンタンリンポチェがゲル・ケンチェンに贈ったテキストは、現在でもデプン・ゴマン学堂の教科書のひとつとして、すべての学僧たちが学んでおり、特に『波羅蜜考究第四章要約偈』は暗唱しなければいけないテキストのひとつとして極めて重要な聖典となっている。

本誌篇はクンケン・ジクメワンポがゴマン学堂に留学する弟子のために著したものであるが、その原型は同じくアムドから中央チベットへと留学する際にジェ・ツォンカパに師トンドゥプ・リンポチェンが贈ったものと類似するものであり、ガンデン/セラ/デプンといったラサを拠点とするゲルク派の総本山で如何に学ぶべきなのかということを述べている点では、以前本サイトに紹介したグンタン・リンポチェの『参学の道標』とほぼ内容的にも重なるものである。

本誌篇に述べられていることは、現在でもデプン・ゴマン学堂の学僧たちが日々心がけなければいけないことであり、チベットの学問僧院とは如何なる施設であり、そこで彼らは何を目指して、どのような伝統に則って学級をしていっているのか、ということをよく表している。弊会では、ダライ・ラマ法王猊下の助言に従い、クンケン・ジクメワンポが著した暗記用のテキストである『学説規定摩尼宝鬘』を現在でも定例法話会の際にゴマン学堂からお招きした先生から学ばせていただいているが、このようなテキストは本来どのように学ぶことを想定して書かれたものなのか、ということを理解するのに、同じ著者による本教訓は多くの方に資するものと思われるので、ここに和訳を作成しておいた。

ཕྱག་དཔེ་ཐུང་བ། →
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