十方におられる仏たちよ、菩薩たちよ、故「某甲」(故人の名前)と申す者のことを、どうか思し召し給え。
故「某甲」(故人の名前)と申す者は、輪廻の無始以来、施しを行い、禅定を修習するなどの善業を数えきれない程為してきたし、為していただいてまいりました。他人が為してきたものに対しては随喜してきたし、また関係者として残された私たちも、去ってしまった故人のため、師および三宝へ供物を献上し、僧伽を供養し、貧しい者たちには施しを為してきました。真言陀羅尼を念誦し、教典を読誦し、曼荼羅へと招き入れ、灌頂を授けて頂き、罪障を浄化するなどのことを行ってきました。
これらの善根の力によって、故「某甲」(故人の名前)と申す者は「もしも業の力によって六道輪廻の何れの衆生へと生まれている、もしくは今後生まれることになる業を有する人間であったしても、これらのすべての善根に従い、その果報に相応しい者とならんことを。それらの果報を受けた後には、六道それぞれの苦悩から解脱し、速かに現等覚せんことを。」と彼はそのように語っておられました。
このようなことが実現するまでの間、彼がこれから如何なる生を受けようとも、彼がゆとりのある身体を全うして得ることができますように。さらには上界の七功徳をもつ者となれますように。聖者たちの七宝を持てる者となることができますように。
あるいはまた、彼は、これから如何なる生を受けようとも、仏たちと出逢えることから離れないように。正法を聴聞することから離れないように。輪廻へと再生する期待を離れた戒律を護持できるように。有情に対して怨恨を抱かない忍辱を修習できますように。無色界を回避する禅定を保ち維持することができますように。方便である大悲心と離れたものではない般若波羅蜜の意義に通達し、証解することができますように。
この素晴らしき歓しい勝者の曼荼羅にて
最勝の麗しき蓮華の台から降誕し給える
無量無辺の光明の御影で勝者が示現せる
この現前で私が彼の授記を頂けるようにここで授記を頂いたこれから後には
千万の化現を数多に出現させてゆき
仏智の力により十方に存在している
すべての有情たちを利益してゆこう普賢の行であると釈尊が説かれたもの
その僅かばかりでも私は積集してきた
このことから衆生たちの善なる祈願が
一刹那のうちに叶って成満せんことを普賢行願を廻向し得てゆくものである
『華厳経所収・普賢行願讃』結偈
無限の福徳を最勝に得てゆく者たちが
暴流に溺れて苦しんでいる衆生たちが
無量光の浄土へと向ってゆけるように
上下の願文を適宜合わせて状況に応じて祈願をなされるようにお願いします。ロサン・タクパ記。善哉。
訳者からのメッセージ
本文章はジェ・ツォンカパ大師が弟子たちのために祈りや廻向というものをどのようにしらたよいのか、ということのお手本として記した文章です。本文章はもうひとつの祈願次第に続き、特に故人のために遺族が廻向祈願を行うための文章です。私たち自身がお祈りするのと同時に、自分たちを関わりのあった自分たちの大切な人たちのために、彼らが様々な善業を積んだ結果として、私たちに関係する人間として生まれてきて、私たちの幸せに直接関係するさまざまなことを感謝しながら、このような文章に基づいて、亡くなった方々たちのためにお祈りしましょう。ジェ・ツォンカパも「上下の願文を適宜合わせて状況に応じて祈願をなされるようにお願いします」と本文の最後で記されていますように、みなさま大切な方々のお名前を口にだして唱えるところもありますので、本訳文がお葬式や法事などのみなさまの日々の祈りの生活に資するものとなれば幸いです。チベット暦木龍歳・正月神変祈願月九日訳者記。合掌。