十方におられるすべての仏たちよ、菩薩たちよ、施主たち、ならび眷属の諸衆よ、どうか思し召し給え。布施により起こったこの広大なる善根をはじめとし、私、そして他の人々が、過去・現在・未来において積集する諸々の善根の力により、殊勝なる師たち、善逝たちの殊勝なるご意向が、より一層円満に実現せんことを。すべての利益と安楽の根源である仏世尊の教宝がすべての方角にて興隆し増大せんことを。教宝を講釈し、教法を実践することで護持されるすべての勝れた御仁たちの御身が健やかにして長命たらことを。彼らの純然たる活動がすべての方角へと広がり増大せんことを。僧伽衆の十法行の実践がすべて興隆し増大せんことを。その加持と大悲により施主たちが解脱と一切智を実現するための逆縁のすべてが寂滅せんことを。順縁である福寿と誉れと福徳とのすべてが、満ちていく月のように一層円満に実現してゆかんことを。
あるいはまた、こうした善根の力により、私たちが今後、すべての仏たちが出現する未来世のすべてにおいて、勝者たちの正法のすべてを勝者たちの御意向の通りに護持してゆくことができることを。そしてそのための障害になるような類いのものが、順縁たる善知識への師事し、奉仕し、交友し、寿命を全うし、生活をするための資材を勝者たちが与えてくださるすべての場合に滞りなく実現せんことを。それらのための逆縁となるものが取り除かれ、順縁が成就してゆき、かつて過去において、仏たちに謁見し、正法を聴聞し、聖者の僧伽を拠所とし、教法と四衆を守護しようと承諾されお誓いを立てられた護法尊たちが、一瞬たりとも怠ることなく私たちを支援して下さらんことを。
十方におられる仏たちよ、菩薩たちよ、私「某甲」(自分の名前を入れて読む)と申す者のことをどうか思し召し給え。「某甲」(自分の名前を入れて読む)と申す長者は、根本三儀軌に集約できるこれらの善根の力により、虚空に等しい無辺無数の一切有情たちを利益するために、仏位というこの妙宝を得ることができるように。そして得るまですべての世において、より高き種姓のなかでも最勝のものへと生まれ、より良き身体のなかでも最勝のものとなれるように。寿命が長久であり、無病息災である者たちのなかでも最勝の者となれるように。財産や権力の広大な者たちのなかでも最勝の者となれるように。智慧が広大であり、信心が甚大である者たちのなかでも最勝の者となれるように。聞法を多くし、戒律を護持する者たちのなかでも最勝の者となれるように。施すことを歓び、慚愧無き者たちのなかでも最勝の者となれるように。
あるいはまた、こうした善根の力により、この世間界のすべてにおいては、雨の水の恵みが適時降らんことを。収穫は常に豊作であらんことを。すべての疫病や感染の流行が途絶えるように。時代の争乱のすべてが速かに平和にならんことを。すべての有情たちが両親のように慈愛のうちに留まれるように。すべての有情たちが各々の所有物・財産・権利で満ち足りていることを感じることができるように。すべての有情たちが魔物たちの羂索から完全に解き放たれるように。すべての有情たちが安楽を享受できるように。すべての悪趣の者たちが不在になるように。菩薩たちが何処におられようとも、彼らのすべての祈願が実現せんことを。
この素晴らしき歓しい勝者の曼荼羅にて
最勝の麗しき蓮華の台から降誕し給える
無量無辺の光明の御影で勝者が示現せる
この現前で私が彼の授記を頂けるようにここで授記を頂いたこれから後には
千万の化現を数多に出現させてゆき
仏智の力により十方に存在している
すべての有情たちを利益してゆこう普賢の行であると釈尊が説かれたもの
その僅かばかりでも私は積集してきた
このことから衆生たちの善なる祈願が
一刹那のうちに叶って成満せんことを普賢行願を廻向し得てゆくものである
『華厳経所収・普賢行願讃』結偈
無限の福徳を最勝に得てゆく者たちが
暴流に溺れて苦しんでいる衆生たちが
無量光の浄土へと向ってゆけるように
訳者からのメッセージ
本文章はジェ・ツォンカパ大師が弟子たちのために祈りや廻向というものをどのようにしらたよいのか、ということのお手本として記した文章です。大乗仏教では『華厳経』最終章の「普賢行願讃」を唱えるのが「祈願王」とも呼ばれる正式なものですが、その末尾の三偈の前に挿入する形で、本文章は著されています。(普賢行願讃の三偈の冒頭の一句しか原文には示されていませんが、訳文ではその部分も補わせて頂きました)僧院や寺院などを参拝する時はもちろんみなさまの家庭でも毎日朝晩この文章のようにお祈りされることをお勧めします。
これまで「お参りにいくのは好きだけど、お祈りの仕方は実際にはよく分かりません」「自分なりにいつもお祈りをしていますが、効果があるかかどうかはよく分かりません」「我が家の宗派はこれこれなんでこれだけ唱えてればいいんでしょうか」「チベットのお寺に伺いましたがお坊様たちがどんなことをお祈りをされているのかさっぱり分かりません」「そもそも仏教では仏様にどうやって祈るのか習ったことがありません」といった声が多くありました。そのような方々が簡単に仏前で合掌し、このジェ・ツォンカパ大師のお祈りのやり方の文章を唱えながら、その内容を心に浮かべやすいものとするため、本和訳を作成させて頂きました。みなさまご自身のお名前を口にだして唱えるところもありますので、本訳文がみなさまの日々の祈りの生活に資するものとなれば幸いです。チベット暦木龍歳・正月神変祈願月九日訳者記。合掌。