チベット暦水卯歳(2023.12-2024.1)デプン・ゴマン学堂日本支部の拠所・真光院(大本山大聖院西広島別院・広島市西区庚午)では、来日中のゴペル・リンポチェ・ガワン・ニェンダー師により、世界的なパンデミックのために、日本との往来が困難となっていたため、一時中断していた日本別院における月例の法要を再開しましたのでご報告申し上げます。
日本別院における月例法要は、2004年以来、来日されたデプン・ゴマン学堂の善知識たちにより毎月チベット暦に基づいて決まった日に行ってきたものです。月初めの水曜の焼香供養に加えて、八日・九日の緑ターラーに捧げる曼荼羅供養の儀式と護法尊たちに対する特別供養、毎月25日に行う師資相承供養の法要は、2004年7月に前ゴマン学堂長ケンスル・リンポチェ・テンパ・ギャルツェン師が日本別院を開創される時、本山デプン・ゴマン学堂でも行っている月例法要と同じ内容の法要を日本でも行うことと定め、それ以来僧侶のみなさまが一時帰国されている数回途絶えることがありましたが、近年のように数年間法要を実施できなかったことはありませんでした。このような事情もあり、来日中のゴペル・リンポチェはご滞在をしばらく延長され、去1月8日に行いました大聖院での弥勒祈願祭にいたるまでのチベット暦の十一月にこれらのすべての月例法要を無事に復興なされることとなりました。
諸尊燻浄焼香供
まず月初の水曜に、如来・菩薩・本尊・護法尊・土地神などをお招きし、清浄なる煙によって供養し、開運招福・厄災消除をお願いする諸尊燻浄焼香供があります。この法要は、チベットの僧俗でも極めて一般的なもので、日頃私たちが財物を支出させていく過程で様々な罪を積みながら失われていく運気を向上させることを目的として行うものです。本法要は本山デプン・ゴマン学堂では特に月例行事として行われているものではありませんが、重要なチベット仏教の仏教文化のひとつとも言える行事であり、神仏習合の長い伝統のある日本では、この法要を通じて、日本独自の八百万の神々たちをも対象として供養しています。去る2023年12月13日(水)ゴペル・リンポチェは、11月23日に大聖院で行ったのとは規模は小規模ですが、まずはこの諸尊燻浄焼香供の月例法要を勤修なされ、無事にその月例抱擁を再開させていただくことができました。
緑多羅四曼荼羅供
またチベット暦8日去2023年12月20日(水)は、緑ターラー菩薩をはじめとしてターラー菩薩たちに全世界を象徴する曼荼羅を捧げて、速やかに三世十方の諸仏の事業の象徴であるターラー菩薩のご活動を推進して頂くようお祈りする日となっています。このターラー菩薩に対する供養は、事業発展・仏法交流・厄災消除・当病平癒などを中心とする様々なご利益があり、儀軌そのものもデプン・ゴマン学堂で学ばれたクンケン・ジクメワンポの儀軌に基づいて修法しています。燻浄焼香供に続いて、12月20日ゴペル・リンポチェはこの緑多羅四曼荼羅供を修法され、こちらも無事に成満いたしましたのでご報告申し上げます。通常デプン・ゴマン学堂では大集会殿にて僧侶全員がこの儀式を行い、供物などの準備は多くの職衆が担当し、読経の速度も早く一時間程度で終わりますが、このたびリンポチェはお一人だけでしたし、おひとりで準備するのは生まれて初めての経験だとのことで、供物の置き方などについても苦心されながら、比較的ゆっくりと時間をかけ、心を込めて勤修できたのは大変良かったことであると、感想を述べられておられました。
六臂大黒天歓誓法
翌チベット暦9日(2023年12月21日)は護法尊の特別供養がありました。この法要は、デプン・ゴマン学堂の護法堂では毎日行っているものですが、各支部や末寺などでは通常月例で行っております。護法尊の特別供養は、大黒天・夜摩法王・毘沙門天という三士の道次第の護法尊に加え、パルデン・ラモ(吉祥天女)を順に行っていますが、まず今回は、歴代のゴペル化身の護法尊が六臂大黒天でもあることもあり、しばらくは、六臂大黒天に対する歓誓供養を行うこととなりました。六臂大黒天歓誓法の儀式にあたっては、パンチェン・ラマ一世でジェ・ツォンカパ大師の高弟であるケードゥプジェ・ゲレクペルサンポの著わされた儀軌に基づいて行っています。
「歓誓法」(カンソ)とは、かつて釈尊がおられた時に「速疾業観世音菩薩」(ニュルゼー・チェンレーシク)とも呼ばれる、十方三世の一切の大悲心の化現である観世音菩薩の忿怒形たる六臂大黒が眷属たちを連れて、「この先未来永劫、釈尊の教えを護持実践する人々たちを必ず助けよう」と誓われたことを大黒天へ供物を捧げながら、いまいちど思い出していただき、速やかに衆生たちを救済する活動を行って頂くための請願をするものです。請願にあたっては、阿闍梨はまずは怖畏金剛へと生起し、その要望を伝達する主体も怖畏金剛尊からの請願として施主のみなさまの所願と共にお伝えしてゆくものです。
ゴペル・リンポチェは、修行時代から、ゴマン学堂に所属する化身ラマとして、デプン・ゴマン学堂護法堂の金剛阿闍梨を長年お勤めになられた経験もあり、一般のゲシェーたちよりも儀軌については精通されておられ、儀軌を行うために必要な行なども成満もなされておられますが、今回のようにおひとりで法要を行われるのは初体験とのことで他に一緒に唱える僧侶たちも不在のなか、経文を確認なされながら金剛杵・金剛鈴・太鼓などの奏楽供養も行われ、滞りなく法要は成満しました。
その後、チベット暦二十五日(2024年1月6日)には月例の師資相承供があり、これはパンチェン・ロサン・チューゲンの著した師供養儀軌やダライ・ラマ五世の著した春の王の歌に基づいて、釈尊から脈々と法脈を受け継いできた師資相承たちを供養するための法要です。師資相承供で献上する供物は主に「資糧」(ツォク)と呼ばれるもので、これは私たちが師たちから教えて頂いた仏法を実践し、福徳の資糧と智慧の資糧との両方を積集して、一切衆生を救済するために一切相智の境地を実現するための糧となるものですが、大乗の菩薩衆は自ら積集した善なる資糧もまた、一切衆生が速やかに苦しみから逃れ、仏の境地に至ることができるように、と自らの積集した善資を廻向します。この福徳の資糧と智慧の資糧との二資糧の象徴として、少量の酒と肉の二つの供物を捧げ、同時にそれに添える荼枳尼天に捧げる供物なども大量に捧げ、その一部は残して、それを施餓鬼として、餓鬼や恵まれない衆生たちへと捧げる儀式です。1月6日には県外・県内からの参列者もいらっしゃり、ゴペル・リンポチェはみなさまと共に、先日の兜率五供に引き続き、この師資相承供を無事に再開されることなりました。
また令和六年の元日から三ケ日には、大本山大聖院にて終日、チベット密教の紐のお守りである「スンドゥ」を初詣にこられた方々おひとりおひとりに結んであげながら、本年が素晴らしい年になるようにおひとりおひとりに心を込めてお祈りをされていました。本年のお正月は、比較的天気もよく穏やかで少し暖かい日が続いたこともあり、今年一年がよい年となるでしょう、とお話しになられながら、テントのなかでもスマートフォンやiPadを駆使されながら、毎日のお勤めである秘密集会などの儀式も静かにお勤めされながら、過ごされることとなりました。
1月7日には、真光院の新年初祈祷の護摩供養が行われ、住職吉田大裕師を中心に、毎月真光院の月例祭にお参りに来られている方々ともささやかな新年会が行われました。
また8日は再び大聖院の弥勒堂にて『現観荘厳論』をお勤めになり、十一月の降臨大祭から続いていた2ヶ月間の各種行事は一旦お休みとなります。
明日1月12日よりはチベット暦の12月がはじまります。リンポチェはインドの本山に一度お戻りになられますが、月例法要は、日本ではできなくても、インドでほかの多くの僧侶の方々に声掛けされ、日本のみなさまの所願の成就のために、絶え間なく修法していきましょう、ということになり、デプン・ゴマン学堂にお戻りになられた後にも、ご縁のあるみなさま方のご祈祷を途絶えることなく、デプン・ゴマン学堂祈祷所などで継続的に行われることとなりました。
また暫く募集していなかった新しい年の1年間の開運厄除祈願も、インドにお戻りなられた後に再び行うこととなりました。これはカーラチャクラ・タントラに基づく占星術と天文学に基づく開運厄除祈願で、チベット仏教文化圏で広く行われているものです。多くのチベット仏教徒たちが、新しい年を無事に過ごせるように一年のはじめにそれぞれの厄などを解消するために、僧侶たちにお願いをして厄除けをしてもらいます。日本でも節分に行う「星供養」というのはこれに当たるもので、自分たちだけでなく、このすべての生きとしいけるものが、星めぐるこの世界において、よき年を過ごせるための祈りをこめてチベット仏教の最高学府の総本山であるデプン・ゴマン学堂に在籍する仏典に通暁している僧侶たちにお願いしておけば、必ずや安心して穏やかに一年が過ごせることでしょう。
リンポチェは来週からインドに一時帰国されますが、再び春のお彼岸にはお戻りになり、桜の咲くころから再びご法話やご法要を行われる予定です。まだまだ日本では寒い日々が続き、先日のように地震などの天災などがあったり、一面からのみ見れば悲しい出来事もありますが、一方では、インドではダライ・ラマ法王猊下が日本の私たち仏教徒のためにお祈りをしてくださったり、決して不幸な出来事ばかりではありません。
リンポチェが法話会で「一切相智」という如来の境地は、十方三世の如来たちは私たちがいつも何をしていてどんなことで悩み苦しんでいるのかを見つめていることである、と先日教えてくださいました。新しい年もまた、如来たちのあたたかい眼差の降り注ぐ、心穏やかな年となるようお祈り申し上げます。