昨日2021年2月16日早朝、2000年、2001年、2005年と来日されたザンスカールのトンデ僧院出身のゲシェー・ロサン・チャンパ師が、カルムイク共和国にて新型コロナ感染症にて弟子たちに仏法の実践を促すため、御年65歳にて、示寂の相を示されたとのことです。
ゲシェー・ロサン・チャンパ師は1955年、チベット文化圏の北インドのラダックのザンスカールに生まれ、13才の時に出家し、トンデ・マルパリン僧院にて読経と法要を5年間学習されました。18才の時デプン・ゴマン学堂へ入り、ケンスル・ガワン・ニマ師、グンル・ケンスル・テンパ・テンジン師、ハルドン・ケンスル・テンパ・ゲルツェン師に師事し、仏教論理学・波羅蜜多学・中観学・阿毘達磨学・倶舎学を学習し、修了。1997年「ゲシェー」の学位を取得されました。その後ゴマン学堂よりカルムキア共和国のガンデン・シェードゥプ・チューコル僧院に派遣され、五年間仏典講読などの講師を勤められました。
国際チェス連盟(FIDE)会長でカルムイク共和国の初代大統領ともなられたキルサン・イリュムジーノフ氏からの深い信仰を受け、27年間カルムイクに滞在なさり、カルムキアの仏教復興に多大なるご尽力をなさいました。
2000年、2001年、2005年と来日され日本ではグンタン・リンポチェの『水の教え』『自他等換法』『無常修習法』やクンケン・ジクメワンポの『地道規定』の翻訳などにも様々なご助言をいただきました。
その後は地元のザンスカールに戻って子どもたちに仏教を教えたりされていましたが、本山ならびにカルムイクのお弟子さんたちの強い要望により再びカルムイクにいらっしゃり多くの僧侶たちの指導にあたり、近年では師の指導を受けた留学僧も多く本山に留学するようになりました。
昨年には新型コロナウイルスの感染拡大に伴い帰国した僧侶たちに本山での学年末試験を執行するなど合計で27年間にもわたり、カルムイクの僧侶たちの指導に大変尽力されました。
ロシア語とチェスが堪能な、常にもの静かで穏やかで誰にでも優しく学識も高い先生は、日本におられた時は、弊会サイトにて「ゲシェー・ロサン・チャンパ師の質問箱」というのを開催して、毎日のように様々な方の悩み相談に真摯に答えられておられました。
昨晩から本山デプン・ゴマン学堂のガリー学寮では師の追悼法要が行われています。
【質問】私の家族信仰心もありませんし、仏教を学ぼうともしませんし、問題ばかり起こしています。すべての衆生を母であることを知りなさい、と仏教では教えていますが、そう思うのは難しいです。どうしたらよいでしょうか。
【ゲシェー・ロサン・チャンパ師の回答】
あなたのおっしゃることは確かです。そのような問題は起こりうることだと思います。
このようなことがあるとはいえ、菩提心を起そうとする時には、今生の父母だけではなく、過去世のあらゆる世代にわたる父母の恩恵を思い出さなければいけません。過去世から現在まで仏教のことを何も知らない父母がいる可能性の方が高いのです。現在の父母が仏教のことを知っているのかどうか、または正しく信仰しているのかどうかということは問題にはならないのです。
たとえ仏教のことを批判する父母であっても、その人たちの恩を思い起こさなければならない充分な理由はたくさん有ります。あなたが小さな赤ん坊のときから今に到るまで大きくなれたのは間違いなくご両親のお陰なのです。そしてわたしたちは何度も何度も生まれ変わっていまここにいます。その生まれ替わった回数に限りがないのと同じように、その生まれ変わったそれぞれに両親がおり、両親の数も数限りないのです。それだけではなく、前世においても、いま現在の両親が自分の両親であった可能性は非常に高いのです。更にいえば、すべての生きとし生けるものが自分の両親であった可能性は非常に高いのです。ですから、この動物は自分の両親であったが、この動物が自分の両親は自分の両親でなかったといった区分けをすることなどできないのです。
もしも自分の両親であれ、他の人であれ、自分の考えとは合わなかったり、他の人に危害を加えるような人であった場合、そのような人たちに対して、普通の人に対する慈悲心よりも、特により大きな慈悲心を起す必要が有ると言われています。ギャルセー・トクメーも「自分に対して息子のように大切にしてくれた人が、自分にとって敵であるかのようになったとしても、母親が病に掛かった子供の心配をするように特に愛情を払わなければならない。これが菩薩の実践である」とおしゃっています。
直ちにそのような感情を起すことは難しいとはいえ、ゆっくりゆっくりとこういった思いを起していくことが大切です。