夜摩法王は閻魔大王とも呼ばれ、地獄の王ですが、釈尊に仏教がこの世に存在する限り仏教を守り、仏教を実践する修行者の順縁を成就して、逆縁を退ける請願を立てて以来、仏教の護法尊としていまも活躍しています。
日本別院では無上瑜伽タントラの教義に基づいた護法尊の特別供養を毎月チベット暦の9日に行っていますが、今月の供養は夜摩法王(閻魔大王)に対する供養となります。
護法尊に対する信仰について
特にゲルク派では宗祖ツォンカパによって、「三士の護法尊」として数えられる護法尊のひとりで、怖畏金剛་(ヤマーンタカ)の最も重要な家臣のおひとりです。
ツォンカパは夜摩法王/閻魔大王を信仰すべき理由は、一切知者である仏陀の境地を速やかに実現するためには、三士の菩提道次第に対応した護法尊である、夜摩法王(ヤマ・ダルマラージャ)・毘沙門天(ヴァイシュラヴァナ)・六臂大黒天(マハーカーラ)の三尊を信仰することを勧めていますが、そのうち夜摩法王については次のように述べています。
下士の志すもの(来世に天人の境地を目指して修行する者)とは、この世間には長くは留まることはできない、死の無常、業と因果、輪廻の過失というものを見ることで、そこからの救済たる帰依とその所学に思いを巡らす。彼らはそれを心に起こさなくてはならない。このような気持ちを持続させておくためには、夜摩法王を所依としなくてはならない。
彼は死を司どる者であり、善業・罪業を審判する者である。罪人を罰して善人を救う者であり、業の因果を明らかに映し出す鏡のような者であり、善悪を正しく享受して、如法行を行う者である。このことから「法王」と呼ばれる。白黒の業に従っているので「業の審判者」とも呼ばれる。
下士に関連する法は、三つの道すべての根本であるからこそ、これを心に起こすために、「業の審判者」を所依としなければならない。
〔上士の場合にも方便は大黒天であるが〕また智慧や清浄なる見解を心相続に起こすためには、夜摩法王を所依としなければならない。彼は智慧の護法尊であり、至尊文殊の家臣であるからである。
このように今生から来世へと死後のことを考えて、仏法僧に帰依する下士の護法尊が夜摩法王であるのと同時に、上士の智慧分にあたる修行をする上でも夜摩法王を信仰しなくてはならないことをツォンカパは説いています。夜摩法王/閻魔大王は、文殊菩薩の家来であり、智慧の仏のひとりであるとされています。
夜摩法王の供養について
夜摩法王にも外成尊・内成尊・密成尊と三種類があり、内成の夜摩法王には息災尊・増益尊・敬愛尊・降伏尊の四尊の眷属がいますが、降伏尊と外成尊は同じ人物で、敬愛尊と密成尊は同じ人物で、死を司る三十尊の死神の王が夜摩法王/閻魔大王となります。
具体的に護法尊の特別供養の際にはどのような供養を行うのか、というと、護法尊の特別供養はチベット語では「カンソ」と呼ばれており、夜摩法王の場合以外でも同じように供物を捧げて歓喜して頂き、かつての宣誓通りに再び誓いを実現するための行動を、我々のために行ってくださいというお願いをする儀式となります。つまり初志に戻って頂き、そのお力を我々に貸してくださいとお願いするという流れになります。
夜摩法王に対する儀式はダライ・ラマ二世ゲンドゥンギャツォが整備した儀式に基づいて、まずは怖畏金剛尊を生起させて、その上で夜摩法王と眷属たちを道場に生起させます。その上で供物を加持して、供物を夜摩法王ならびにその眷属、次第相承のラマたちに捧げて歓喜していただいて、「あなたがかつて釈尊の御前にて誓ったのと通りに、仏法を守り、それを実践しようとする者たちの順縁を成就して、逆縁を退けてください」という祈願と活動の要請を行うものです。
この歓喜をしていただく時には、ツォンカパ の著した閻魔大王に対する讃嘆の詩頌も唱えられています。それは次のようなものです。
伸ばされた御足をすこし動かすだけで
四大陸の曼荼羅と須弥山は揺さぶられる
凶暴な水牛の尊顔で 上を見上げると
高声な笑声が 三地に響き渡っている勝者の唯一の父たる文殊 度し難き輩を
教化のために示現させた忿怒身 怖畏金剛尊
彼の御方に敬礼し夜摩王を讃歎する
ここに魔物たちは 不放逸の時に至るだろう
このような儀式は日本に伝わった密教にはありませんが、護法尊の供養の儀式のひとつとしては、非常に宗教的にも重要な意味をもっております。
次回の日程:
- 日程:2019年10月7日(チベット暦9日) 16:00
- 拠所:真光院
ご祈願の申し込み:
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