先週、日本別院の本堂、僧坊などの建築を考えるために建築家の中村好文さんが現地の下見に来られました。『住宅巡礼』、『住宅読本』、『意中の建築 上・下巻』『小屋から家へ』『パン屋の手紙』などの著作でもよく知られた御方です。
なにもないからこそすべてがある――小さな小屋に立ち戻ることで浮かび上がってくる「人の暮らしとすまい」に本当に必要なもの、本当の豊かさとは……。30年にわたり首尾一貫して「普段着のように居心地のよい住宅」をつくってきた中村好文流の「すまいづくり」のエッセンスが、日本初のチベット仏教の僧院建築にどのように活かされるのか。これから楽しみです。
打合せのなかで私の方からは「いまの日本、そして世界、そのなかでチベットの僧院が日本でどうあるべきか。それは決してチベットの伝統的な建築をそのまま再現する必要はないと思います」「仏たちの住まい、それに仕えて解脱を目指す人たちの僧侶たちの住まい、そこに集まる人たちが自らの心を鏡のように見つめ直して、集い、また帰ってゆくための住まい、その三つの住まいをつくってください」などと結構難しい注文をさせて頂きました。
チベットの僧侶たちは洞窟で瞑想したりすること、日本別院の創始者のケンスル・リンポチェもラサに居られた時には、洞窟で仏典を暗記したこと、ゴマン学堂の教科書をつくった傑僧クンケン・ジャムヤンシェーパはその教科書の殆どをゴマン学堂の裏山の洞窟のなかで書いたこと、そんな話題から西洋の修道院、そこで育まれる文化にも話題がすすみます。
日本にはじめて正式につくられるチベットの僧院は、たとえばリチャード・ギアやブラッド・ピットといったハリウッドのチベットサポーターが来日した時に、お忍びでリトリートに来たくなるようば場所、さすが現代の日本人がつくるとこういう風なチベットの僧院になるのか、そういう多くの期待や夢が寄せられる、多くの人の「意中の建築」、そしてそこで修行をする僧侶たちの「意中の建築」、神仏たちが喜んで、その場に降り立つような「意中の建築」そういった気持ちをお伝えすることができたと思います。
実際に敷地を見られた中村好文さんは急傾斜や日当りなどの問題が多く「これは前途多難」「一筋縄ではいかない」と厳しいお顔をしておっしゃられましたが、きっと素敵なスケッチを作ってくださることと僧侶もスタッフみんな楽しみにしてます。きっとこれから何百年も多くの人の心の支え、そして心の拠り所となる仏たちの住まいができることだと思われます。